今回の成り行きでお金と権利がどう動いてどう落ち着いたのか、私にはさっぱりわからない。第三者である弁護士さんと話して、多岐さんが横取りなんかしていないと確かめたけど、この人だったら弁護士さんの監視ぐらいごまかせると思う。どっちにしろ屋敷をもらった以上は法律上、放っとくわけにはいかず、建前だけでも住んでいます、と言い張るために誰か人を置かなきゃいけないそうで、適当なのはこの人しかいなかった。だから管理人を続けてもらっている。でも給料は出していない。何をして食べているのかわからない。怖くて深く聞けない。「じゃあ鯉売っていいかな。錦鯉。素人のぼくが見てても殺しちゃうかもしれないから……」「図書館でも行って飼育法勉強してください」 黙っていたら片っぱしから売り払っちゃって、土台石ぐらいしか残らない気がする。屋敷を誰かにあげるかもしれないといっても、この人だけは例外だ。皮肉なことに。「干上がっちゃうよ」「普通に働いてくださいよ、どこかで!」 私は思わず怒鳴った。それからつい愚痴ってしまった。「なんで私だけこんな目にあうんですか。親族にはいじめられるし、うさんくさい中年に付きまとわれるし、おまけに変なカビに取り付かれるし。マジでもう泣きそう」「そのうさんくさい中年が親族のいじめを防いでいるんだから、盛大に感謝してほしいなあ」「それ本当なの? 口先だけじゃない?」 多岐さんはにやにやとよくわからない笑みを浮かべる。いらない用心棒を無理に雇わされている商人の気分。 するとやおら多岐さんは笑ったまま、少し顔を寄せてきた。「カビをなんとかする方法、教えようか」「治療法見つかったのっ!?」 思わず私は食いついてしまった。あのあと、くばり神を抑えようといろいろやってみたけど結局無駄だった。真っ先に訪れた警察では妄想癖の痛い子だと思われて終わり。他の医療機関やウェブサイトを持っている科学者の人にも話したけれど、どこでも丁重にお断りされた。こちらに何ひとつ現物がないのがつらかった。父の遺体が残っていればよかったのに。 多岐さんには、独自の人脈があるのかもしれないと思わせる怪しさがある。私が藁にもすがる思いで訊くと、彼はこうささやいた。「いいことを続けるんだ」「……え?」「生きている間から、歳を取って死ぬまで、善行を積むんだよ。ひとつの後悔も残らないように。さすれば汝《なんじ》死の床に伏せりしとき、異教の神の現れることなかるべし」「本当なの?」「言い伝えではね。やはり、やり残したことへの妄執が、くばり神を育てるんだろう」「それは――」私は肩を落として、息をついた。「むっずかし……聖人しか無理じゃないの」「そう? きみならできそうな気がするけどな,
オメガ カタログ。花螺ちゃん」「何を――」 言い返そうとして、やめた。すごく突っこみづらい、いい笑顔だった。「カランカラーン」 呼びながら園長がやってきた。ただのカラでは発音しにくいと言って、あの人はいつもそんなふうに呼ぶ。カウベルか私。「はいー」「さっき例の人が行ったけど、大丈夫ー,
オメガ コピー 販売?」「無事です――」「ぼく、まだ不審者扱いなの,
オメガ シーマスター買取価格?」「まあ当分は?」 彼を置いて私はベンチに戻った。お風呂の時間が来たので、みんなに手を貸して道路へ上げる。手伝ってくれながら園長が言った。「ここね、このベンチ。ずっと使ってていいそうだから」「あ、そうなんだ。って誰から聞いたの,
オメガ3?」「地主さん。先週ここで会ったの。ひょんなことで相続した土地だけど、使い道がないから当分空けておいてくれるって」 私は棒立ちになってしまった。振り返ると、多岐さんと目があった。どうしようもないね、というように肩をすくめる。 確かに、どうしようもない,
オメガ 一覧。――道風さんたちの計画は音もなく進んでいる。くばり神の入った人は健康になってしまうから医者にかかることが減る。検査で見つかることはほとんどない,
オメガ 東京。自然に老衰死するから解剖されることもない。殺人の被害者にでもなれば話は別だけど、そんな場合には遺言も残さないから、くばり神は見つからない。 そう、くばり神は見つからないのだ。この空き地を遺してくれた人がそうだったのかどうかも――確かめようがない。きっと東京中、日本中でそんなことが増える。ううん、国内に限る理由もない……,
オメガリング。 それを避けるには――避けたと思いながら死ぬためには――多岐さんの言うとおりにするしかないんだろう。「花螺ちゃん、花螺ちゃん。あんたね、マフラーとキャップ、どっちがいい?」 八十二歳の木塚さんが、よっこらよっこら歩きながら言う。私は車道側に立って車に気をつけながら答える,
オメガのシーマスター。「なに、私にくれるの?」「ボケの防止に、編み物をね、やるんだ。たくさん作って、みんなに上げる,
オメガ シューマッハ。何がいい?」「キャップがいいな、耳あてのついたやつ――」 私ふとと思いついて、訊いてみた,
オメガ 自動巻。「木塚さん、男物も頼める?」「男物は、得意だよ。------------------------------------